希代の詐欺師
昨日NHKで放送された『未解決事件 File.07「ベルトラッキ贋作事件〜世界をだました希代の詐欺師〜」』という番組を見ました。ベルトラッキは贋作を描いて有名になりました。しかし、それは普通の贋作ではありません。過去に類を見ない方法で作られたのです。
まず、彼はゴッホやフェルメールなどの大御所絵画の贋作は作りません。有名ではあるが、相対的にあまり知られていない、かつ作品数の少ない画家の贋作を作ります。そして、その画家の絵画リストから「今はない」作品に目をつけるのです。
彼の手法
「今はない」というのは作品は確かに過去に存在したことが記録として残っているけれど、たとえば、戦争で焼けてしまったとか、戦中の混乱で行方がわからなくなってしまったものなどです。彼はその空白地帯を狙うと言っていました。
そして、その画家が住んでいた町や家を訪れたりして、その画家になり切るのだそうです。もともとベルトラッキは10代の頃からゴッホの模写をして周囲を驚かせるほどの画力を持っていました。さらに彼はある特殊能力を持っていました。それは、絵画を見ればその画家の筆遣いまでがわかってしまうそうなのです。
彼の特殊な能力
そして、彼はターゲットの過去の画家になりきって、「今はない」絵画を描き上げます。そして、所有者履歴の改ざんなどをおこないオークションなどで、歴史的大発見として売りさばいてきたのです。彼の多くの贋作に関してはすでに時効を迎えており、数年前に6年間だけ服役しただけで今はのんのんと自分名義で絵を描いています。
彼の贋作は日本のいつくかの美術館にも展示されていました。みんな騙されていたのです。本当は過去の有名な画家なんかではなく、ベルトラッキが描いたものだったからです。ベルトラッキには罪悪感はありません。なぜなら、贋作とわかるまでは人はそれを見て感動していたからです。
毎週教会に行くのに似ている
僕はベルトラッキが犯罪を犯した点について同意できません。しかし、彼がいわんとしていることには同意できる気がします。なぜなら、僕は絵画は誰が描いたかではなく絵そのもので評価されるべきだと思うからです。ベルトラッキはこのことに関して「毎週教会に行くのに似ている」と言っていました。
つまり、「信じるか信じないか」だけなのです。
騙すことは犯罪です。それは容認できません。しかし、僕は思うのです。ベルトラッキの贋作とわかるまでは「素晴らしい」、「感動する」と心が動いていたのに、著者が変わった瞬間にその感動が消え失せてしまうというのはどういうことなのかと。
ネームバリューによって評価
絵画は絵画自体に価値が見いだされるべきだと思います。多くの場合、画家は画力だけではなくネームバリューによって評価されています。それは、避けられないことです。彼はその絵画の世界の不条理さに一石を投じたのではないかと思います。
何度も書きますが、間違いなく騙すほうが悪いです。彼を称賛することはりません。しかし、彼は何か本質をついているのではないかと思ったのです。













